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監修: 脳神経内科 千葉 川口 直樹 先生
市立宇和島病院 小児科 林 正俊 先生

講演1
「重症筋無力症のリハビリテーションのまとめ」

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
身体リハビリテーション部 理学療法主任 寄本 恵輔先生


第1回、第2回の本市民公開講座でのリハビリテーション関係のまとめを冒頭で紹介しました。
・・・重症筋無力症の臨床的特徴や予後、薬物療法の良し悪し、活動に対する注意点、リハビリのコツなど。

今回は3回シリーズの総集編として、内容をまとめたいと思います。

➢ リハビリテーションにおける「運動を続けていくコツ」を紹介し、実際に体を動かしてもらいました。

紹介しました動画は、https://mgjapan.org/lets-exercise-1/から閲覧できます。

➢ 重症筋無力症患者さんのリハビリテーションに関しては、ガイドラインで定められておりません。しかし、有害事象もなく症状が改善できたなど、多数のエビデンス報告があります。
継続してリハビリテーションを行わないと、また症状が悪くなるということも重要なポイントだと思いますので、一人で行うことも良いと思いますが、理学療法士と共に協力し合って行うことも大切です。

➢ 実際のリハビリテーションの呼吸理学療法の模様を動画で紹介しました(肺活量、呼吸筋力評価、最大咳嗽流速)。定期的に評価することは大切です。

➢ 呼吸のチカラと、介助に要する費用は相関していますので、リハビリテーションは重要な役割を担っています。

➢ 実際に自宅でもできる呼気・呼吸筋トレーニングなどを、動作も行いながら紹介しました。(腹式呼吸法と口すぼめ呼吸、ハッフィングなど)

➢以前は気管切開を行う人工呼吸器が主でありましたが、喉に麻痺がなければ、最近ではNPPVというマスクを装着するような非侵襲的換気療法で代用することもあります。マスクも多くの種類があります。

➢国立精神・神経医療研究センターで実際に行っている呼吸障害がある患者さんへの運動療法を紹介しました。(NPPVでの呼気トレーニング、トレッドミル、自転車エルゴ、車椅子移動、歩行)

➢2016年にロボットスーツHALが保険適用され、内科的治療や外科的治療の効果を高める複合療法として期待されています。

難病看護・ケアにはステップがありますので、我々は多専門職と共同してその支援を実践しています。理学療法士は患者さんの人生設計まで考えてサポートを行っていますので、コミュニケーションをこれからもお願いします。

ステップ1(生命を維持する:呼吸ケア+栄養)→ステップ2(日常生活を支える)→ステップ3(自己実現を支える)




講演2
「重症筋無力症の発症メカニズムとそれに対応する治療法」

国際医療福祉大学医学部 脳神経内科学 村井弘之先生


重症筋無力症(MG)がどのようにして発症するのか、そしてさまざまな治療薬がどのように効いているのか、についてお話ししていきます。

免疫系と病気:一般的には免疫系が強すぎると、自己免疫疾患やアレルギーを発症します。一方、弱すぎると腫瘍ができたり、感染症にかかりやすくなると言われていますが、実際には自己免疫疾患のある患者さんで腫瘍ができたりということもあり、免疫系と病気の関係は複雑です。

自己免疫疾患:シェーグレン症候群、バセドウ病、橋本病、間質性肺炎、自己免疫性溶血性貧血、全身性エリテマトーデス、型糖尿病、強皮症、天疱瘡、類天疱瘡、潰瘍性大腸炎や関節リウマチなど様々な病気があります

脳神経系に起きる自己免疫疾患:多発性硬化症や視神経脊髄炎、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、筋炎などがあります。

国内でのMGの有病率:人口10万当たり約20人で約3万人の患者がいると報告されており、患者数は2006年から2018年までに、およそ倍に増加しています。男女比は1:2、胸腺腫は2025%の患者で見られます。80%の患者で抗アセチルコリン受容体抗体が検出され、抗MuSK 抗体が5%未満ですが検出されます。他の自己免疫を合併しやすい特徴があります。

➢ MGの症状:易疲労性と日内変動が見られます。まぶたが垂れる(眼瞼下垂)、物が二重に見える(複視)という眼の症状のみの患者さんを眼筋型と言います。全身型MGでは眼の症状のほかに、長いこと噛めない(咬筋脱力)、口角から水がこぼれる(顔面筋脱力)、しゃべりにくい(構音障害)、のみこみにくい(嚥下障害)、くびがだるい(頸筋脱力)、手足の力がはいりにくい(四肢筋脱力)、息が苦しい(呼吸筋障害クリーゼ)など様々な症状が見られます。

正常な筋肉収縮:筋肉を動かすために脳から神経に刺激が伝わり、神経と筋肉が近接している部位、すなわち神経筋接合部に神経終末からアセチルコリンが放出されます。筋肉に存在するアセチルコリン受容体がそのアセチルコリンを受け止め、筋肉の収縮が起こり、手足が動きます。

➢ MGの病態:アセチルコリン受容体に対する自己抗体、すなわち抗アセチルコリン受容体抗体ができ、アセチルコリン受容体がアセチルコリンを受け止めるところを邪魔してしまい、筋肉の収縮力が弱まってしまいます。

➢ MGの検査:エドロホニウム試験やアイスパック試験、眼瞼易疲労性試験、自己抗体のチェック (抗アセチルコリン受容体抗体、抗MuSK抗体)、誘発筋電図でwaningの有無のチェック、体部CTで胸腺腫のチェックがあります。

➢ MGの新しい分類:眼筋型MG、抗アセチルコリン抗体陽性で全身型早期発症MG、後期発症MG、胸腺腫関連MG、抗アセチルコリン抗体陰性で全身型MuSK抗体陽性MG、セロネガティブMGに今後、分類される予定です。

現在選択可能なMGの治療手段:抗コリンエステラーゼ薬、胸腺摘除術、ステロイド、免疫抑制薬、血漿交換、免疫グロブリン、抗補体薬があります。胸腺摘除術は基本的には胸腺腫がある場合に行います。ステロイドは少量を経口投与もしくはステロイドパルスを実施します。血漿交換や免疫グロブリンは、昔はクリーゼや急性増悪時に実施・投与していましたが、今はもっと初期から使うようになってきています。

➢ MGの発症メカニズム:胸腺からのT細胞がB細胞を刺激し、B細胞からできる形質細胞より自己抗体である抗アセチルコリン受容体抗体が産生され、筋肉上のアセチルコリン受容体に結合し補体活性化が起こることで筋力が低下します。

診療ガイドライン2014のめざす治療法:患者QOLを重視した治療の目標「MM(軽微症状で生活に支障なし)以上でステロイド5mg以下」胸腺摘除は必須の治療法ではない経口ステロイドはなるべく少量に抑える免疫抑制薬*を早めに使用する血漿浄化療法、免疫グロブリン**などを用い、初期から病勢を抑える(*一部の免疫抑制薬、**免疫グロブリンはMGに保険適用外)

全身型MGの治療の変遷:以前の治療法は胸腺摘除を行い、ステロイドの漸増(高用量もある)漸減、免疫抑制薬を併用、増悪すると血漿交換を行う治療を繰り返していましたが、現在の治療法では、胸腺摘除は基本的には胸腺腫がある場合に実施し、ステロイドはできる限り低用量とし、免疫抑制薬を併用しつつ、EFT(早期速効性治療)を治療初期に実施し症状を落ち着かせ、増悪した場合にFT(速効性治療)を行い、そのような治療を行っても難治である場合に抗補体薬***での治療を行うようになってきています。

EFT, FT療法の組み合わせ

・ 免疫グロブリン静注療法 ± ステロイドパルス
・ 血漿交換/免疫吸着療法 ± ステロイドパルス
・ 場合によってはステロイドパルス単独(慎重に)

***抗アセチルコリン受容体抗体陽性で免疫グロブリン大量静注療法又は血液浄化療法による症状の管理が困難な全身型重症筋無力症の患者に限る