講演1
「内科医の立場から」
講演1
「公的医療制度どのように活用するのか?より良い暮らしの知恵」
大阪大学大学院 医学系研究科
教授 髙橋正紀先生
① ガイドラインを読む際の注意点
- 今年新しい「重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022」が発刊されました。日本神経学会などのホームページに近く掲載される予定です。*1 掲載されたら、是非読んでみてください。
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診療ガイドラインとは、健康に関する重要な課題(なんでも載っているわけではありません)について、医療利用者(患者さん)と提供者(医療者)の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨が提示(「おすすめ」、「参考」であって法律・規則ではない)されています。*2
- 診療ガイドラインは医療者のためだけに作成されているものではなく、患者さんと医療者の協働意思決定(Shared Decision Making:SDM)を促し、治療方針などを決める手助けとなるものです。
- 診療ガイドラインは権威のある先生の意見で決まるわけではなく、科学的根拠をくまなく調査して、評価することで最適と考えられる推奨が提示されています。
- 診療ガイドライン作成には、作成委員としての参画、外部評価委員としての参画、パブリックコメントとしての参画などの方法があります。患者さんに参加いただくことで、診療ガイドラインの信頼性・公正性はより高くなると期待されます。
② 主治医とのコミュニケーション
- 主治医は診察の時に、患者さんの普段の状況を想像しようとしています。
- 症状を一番知っているのは、患者さんですので、症状をうまく伝えましょう。
- 病気になってすぐの時期は、日々の症状変動が気になりやすいので、週単位、月単位の傾向を考えるようにしましょう。
- 仕事やライフイベントは、治療の目標を決める参考になりますので、重症筋無力症以外のことも、是非教えてください。
③ 最新の研究
- 重症筋無力症を伴った胸腺腫の解析から、ある特定の細胞集団が神経や筋肉に存在するタンパク質を異常に発現しており、胸腺における異常な免疫獲得に関係している可能性が分かってきました。*3
- Japan MG Registryは世界有数の重症筋無力症レジストリーで、患者さんおひとりおひとりのデータが大きな力になっています。レジストリーから多くのデータが創出され、「軽微症状・プレドニゾロン5㎎」という新たな治療目標が提案されました。*4
- Japan MG Registryにおける遺伝子解析研究が進行中で、遺伝子変化を知ることで、より個別化した医療の実現へつながることが期待されています。
髙橋正紀先生からのまとめコメント
今日の話を主治医とのコミュニケーションに役立てください。治療も進歩してきましたが、研究のほうも進歩しています。
*1 重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022 (2022年12月現在 日本神経学会ホームページに掲載されております)
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/mg_2022.pdf
*2 Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0.3頁
*3 Yasumizu, Y. et al. Nat Commun 13, 4230 (2022).
*4 Suzuki, S, et al. Clin Exp Neuroimmunol. 2022;1–8
講演2
「外科医の立場から」
講演2
「外科医の立場から」
国立病院機構 理事
大阪刀根山医療センター 院長
奥村明之進 先生
下記の項目に関して、分かりやすく講演いただきました。
① 胸腺について
② 胸腺腫と重症筋無力症
- ✔ 胸腺腫のCT画像
- ✔ 縦隔腫瘍手術における胸腺上皮性腫瘍の割合(43%)*1
- ✔ 胸腺上皮性腫瘍の手術統計
- ✔ 胸腺腫に伴う自己免疫疾患
- 神経筋疾患(MGなど)
- その他の神経の疾患:味覚異常、末梢神経の障害
- 血液疾患、免疫不全
③ 胸腺外科の歴史
- ✔ 黎明期
- ✔ 日本の胸腺外科の歴史
- ✔ 拡大胸腺摘出術の開発 (1979)
④ 胸腺摘出術の術式
- ✔ 前頸部切開による胸腺摘出術
- ✔ 胸骨正中切開による胸腺摘出術
- ✔ 胸腔鏡 (VATS) による胸腺摘出術
⑤ 低侵襲の胸腺摘出術の開発
- ✔ 1996年、日本で最初の両側胸腔鏡による拡大胸腺摘出術(安藤:岡山大学)*2
- ✔ 1999年、剣状突起下のアプローチ(城戸:大阪警察病院)*3
- ✔ 2001年、胸骨のつり上げ(竹尾:九州医療センター)*4
- ✔ 2003年、胸壁のつり上げ(太田:大阪大学)*5
⑥ 手術ビデオ供覧
- ✔ 胸骨正中切開による拡大胸腺摘出術(胸腺を胸膜から剥離)
- ✔ 胸腺部分切除による胸腺腫摘出術
- ✔ 両側胸腔鏡による拡大胸腺摘出術
- ✔ 手術支援ロボット Da Vinci による拡大胸腺摘出術
⑦ 胸腺腫と胸腺癌に関して
- ✔ 典型的な病理組織像
- ✔ 胸腺腫のWHO分類
- ✔ WHO分類とMGの関係
- ✔ 胸腺上皮性腫瘍の手術成績
- ✔ 進行病期胸腺腫に対する治療
- ✔ 再発後の生存率
⑧ 拡大胸腺摘出術
- ✔ 大阪大学での自験例(1993年~2018年:234例)
- ✔ MGに対する胸腺摘出術数の推移
- ✔胸腺摘出術の Randomized study
⑨ ガイドラインに関して
- ✔ 重症筋無力症新ガイドライン(2022)
- ✔ 日本呼吸器外科学会のガイドライン (2019)
⑩ まとめ
- ✔ 胸腺上皮性腫瘍の治療には病理と病期の診断が重要である。
- ✔ 早期の胸腺腫症例では内視鏡による低侵襲手術やロボット支援手術が進歩している。
- ✔ 胸膜播種を伴う胸腺腫でも外科治療による長期生存が期待できる*6。
- ✔ 重症筋無力症のガイドラインが改訂された。
- ✔ 胸腺腫非合併の重症筋無力症に対する胸腺摘出のエビデンスにより推奨度が上昇した*7。
- ✔ 術後クリーゼの予防には術前の症状の安定化が重要である*7。
*1 日本胸部外科学会 学術集計2014
*2 安藤陽夫ら. 肺 ・縦隔外科 における胸. 腔鏡下手術. 外科治療, 75: 68-75, 1996.
*3 Kido T, et al. Ann Thorac Surg. 1999;67:263-5
*4 Takeo S, et al. Ann Thorac Surg. 2001 2001 May;71(5):1721-3.
*5 Ohta M, et al. Ann Thorac Surg. 2003 Oct;76(4):1310-1.
*6 奥村先生 自験例(大阪大学呼吸器外科データ)
*7 重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群 診療ガイドライン2022