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監修: 脳神経内科 千葉 川口 直樹 先生
市立宇和島病院 小児科 林 正俊 先生

講演1
「賢い患者になるために」

講演1
「賢い患者になるために」

聖路加国際大学大学院看護学研究科
教授 中山和弘 先生

① 賢い患者はヘルスリテラシーが高い

  • ヘルスリテラシーは、情報に基づいた意思決定による「健康を決める力」です。
    情報を入手し、理解し、評価し、意思決定するステップをしっかりと踏めるかどうかが重要です。
  • ヘルスリテラシーに関する調査では、調査国で一番ヘルスリテラシーの高いオランダと比較し、日本は意思決定が難しいという回答割合が多かった。 アジアにおける調査でも、同様の結果でした*1。
  • オランダのヘルスリテラシーの高さは、「自分の人生のなかで起きるいろいろなことについて自分で判断して決定できれば、自分の人生に自ら影響を与えられるし、より幸せな人生を送ることができる」という在宅ケア組織ビュートゾルフの根底にある信念にも表れています。
  • 意思決定には2つのスタイル(直観的、合理的)がありますが、選択肢を十分知り、長短所を比較して何が大事かを考えて選ぶなど、合理的な意思決定が重要です。直観的な意思決定を促すような誤った健康情報には注意が必要になります。
  • 情報は、信頼性の確認「か・ち・も・な・い」の5つを評価しないと、「価値もない」ということになります。
    か 書いたものは誰か?
    ち 違う情報と比べてか?
    も 元ネタは何か?
    な 何のための情報か?
    い いつの情報か?
  • 合理的な意思決定を行うため、選択肢、長所、短所、価値観(大切さ、問題の大きさ)などを点数化することが考えられています。

② ヘルスリテラシーが低い人に大切な専門家とのコミュニケーション

  • 医療者はティーチバック(teach back)を行いましょう。
  • 医療者からティーチバックがないときは、説明を受けた後に確認しましょう。

③ 患者中心の医療のためのシェアードディシジョンメイキング(協働的意思決定)

  • 誰がどのように意思決定するのかは3つのパターンがあります。
    • パターナリズム:医師が決める。
    • シェアードディシジョンメイキング:医師と患者が一緒に決める。
    • インフォームドディシジョンメイキング:患者自身が決める。
  • 自己決定は人間が生まれ持った性質として幸せなことであり、自律という点でもシェアードディシジョンメイキングは必要になります。
  • 日本人は国際的に見て幸福感が低く、幸福感の高い国で多いといわれる人生の選択の自由度も低く、意思決定に自信が無く、直観的な意思決定になりやすい調査結果があります。
  • 日本人の幸福感に影響を与えていたものの調査では、健康、人間関係の次に自己決定という結果でありました。

④ 意思決定ガイド(ディシジョンエイド)とは

  • 意思決定が難しいときに、パンフレット、ビデオ、インターネットなどで、選択肢についての長所と短所を示し、患者や市民が自分の価値観と一致した選択肢を選べるように支援するものになります。
  • 合理的な意思決定を行うため、選択肢、長所、短所、価値観(大切さ、問題の大きさ)を点数化したものを図表化して、比較したものになります。
  • 乳がん患者さんのための意思決定ガイドを紹介します(健康を決める力 5.患者中心の意思決定支援 https://www.healthliteracy.jp/kanja/nyugan.html 2022/4/17アクセス)。
  • 納得した意思決定は=自分らしさ=幸せになります。

中山和弘先生のサイト「健康を決める力」に、本講演内容の詳細が掲載されています。是非、ご覧ください。

https://www.healthliteracy.jp/kenkou/japan.html

*1 Nakayama K. et al, BMC Public Health. 2015 15 505.




講演2
「彼を知り、⼰を知れば、百戦して殆(あや)うからず。」
~重症筋無力症患者と医師とのコミュニケーション~

講演1
「彼を知り、⼰を知れば、百戦して殆(あや)うからず。」
~重症筋無力症患者と医師とのコミュニケーション~

県立広島病院 脳神経内科
主任部長 越智一秀 先生

⑤ 「彼を知り、⼰を知れば、百戦して殆(あや)うからず」

  • 「孫⼦」の有名な⾔葉。孫⼦は「敵」という⾔葉を使わず「彼」としています。この「彼」には「敵」以外の環境すべてが含まれるとする研究者もいます。
  • 重症筋無力症(MG)での「彼」と「己」は、下記に該当します。
    • 「彼」・・・病気、診断した医師(神経専門医)、かかりつけ医、職場(上司・同僚)、家族
    • 「己」・・・変動する症状、人生の目標、自分の気持ち

⑥ まずは病気を知る。重症筋無力症とはどんな病気でしょうか?

  • 患者数は29,210人。男性よりも女性が多く、男性の1.7倍程度。(2018年重症筋無力症全国疫学調査 https://www.nanbyou.or.jp/entry/120 2022/4/4アクセス)
  • 小児期発症も多いが、働き盛りの40~50代も多い。最近では高齢発症も増加しています*1。
  • 代表的な発症機序は、アセチルコリン受容体抗体によるアセチルコリンの受容体への結合の阻害と、「自己抗体」が神経筋接合部を破壊することで発症します。
  • 症状は、骨格筋の易疲労性を伴う筋力低下。初発症状の71.9%が眼瞼下垂、47.3%が複視。診断時に眼筋型MGであった症例の約20%が経過中に全身型に移行するとされています*2。
  • 症状には変動があり、外傷や手術、重症の感染症などをきっかけに悪化することもあります。(クリーゼなど)
  • 治療を簡単にまとめると、病気の原因である抗体を減らす薬剤や、抗体を暴れにくい状態にする薬剤、クリーゼの原因になりうる感染症や外傷を予防する治療などがあります。
  • 完治することは難しいので、病気をコントロールして、自力で神経筋接合部が回復するのを期待する。どの薬剤も多かれ少なかれ副作用があるので、副作用のコントロールも必要です。

⑦ 医師(神経専門医)を知る。医者は何を考えているのでしょう?

  • 重症筋無力症を診断したら、医師は下記を患者さんに説明します。
    • 病気の概念、治療法(期待効果、副作用、危険性、コストの問題:指定難病申請など)、生活をどの様にしていくか(お付き合いの仕方を知ってもらう)
  • 治療開始後に医師は外来で下記を行っています。
    • 問診・診察・・・よくなっているか?筋力は?副作用は?生活の質は?
    • 時々血液検査などで確認
    • 薬剤調整・・・副作用も含めた管理が必要な場合。合併症などがあれば、かかりつけ医の先生と情報共有。場合によっては他科の専門医に紹介。
  • 実際の外来では患者さんからいろいろな訴えがありますので、重症筋無力症に関連したものをピックアップして判断材料としています。
    • 情報量が多いと判断しやすくなりますが、整理が難しくなります。限られた外来時間の中でいかに効率よく病気のサインをとらえることができるかという点がキーポイントになります。
    • 外来受診前に、事前に確認したい点を整理してまとめておくのも、病気並びに医師と付き合うコツです。
      • 時系列での整理が⼤事なポイントです。いつからその症状が出たのか︖どの様に変動しているのか︖⽣活や仕事の環境も伝えましょう。
  • MG diary(アレクシオンファーマ合同会社提供)など、診察前にご自身の症状を記録し、「己」を良く把握して、簡潔に医師に伝えることができるようまとめておくことも重要です。また、こうなりたいという目標を実現範囲内で設定することも重要です。
  • 連携と情報提供
    • 情報が整理できれば、整理できた情報を共有し、現時点で目指すことのできる目標を設定し、他職種で連携しましょう。
    • 仲間を増やして、⼀⼈で戦わないようにしましょう。
    • 知恵を出し合って⽬標を⽬指しましょう。

⑧ 越智一秀先生よりメッセージ

「彼を知り、⼰を知れば、百戦して殆(あや)うからず」
正しい知識を得て、MGとうまく付き合いながら⼈⽣を歩んで⾏けますように。


*1 Murai H. et al, Journal of the Neurological Sciences 305 (2011) 97 102

*2 重症筋無力症診療ガイドライン2014 総論P.5